- 2.温度走性に関与する遺伝子
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(1) 環状ヌクレオチド依存性チャンネルが関与する温度受容シグナル伝達回路の解析 tax-4変異体は、あたかも温度が感知できないような温度無走性異常を示す(図2)。 tax-4遺伝子は、環状ヌクレオチド依存性チャンネルのαサブユニットをコードし、 AFD温度受容ニューロンを含む感覚ニューロンで発現していた。温度受容の分子機構については、 全生物を通じてほとんど解明されていない。環状ヌクレオチド依存性チャンネルは、 哺乳類の視細胞や嗅細胞において重要な役割を持つため、温度受容機構が哺乳類の視覚や嗅覚の シグナル伝達経路と類似している可能生がある。我々は、この仮説に基づき、温度レセプターの本体や、 温度受容のシグナル経路に関与する分子を同定するために、線虫ゲノムのデータベースを活用して 逆遺伝学的アプローチによる体系的な遺伝子ノックアウト株を作成し、その温度走性行動を解析中である。
(2) TAX-6カルシニューリンとTTX-4プロテインキナーゼCは、温度受容ニューロンの感度調節に関わっている tax-6変異体、ttx-4変異体はともに、飼育温度に関わらず常に高温に向かう好熱性異常を示し(図2) 、化学走性も異常である。我々は、tax-6遺伝子がCa依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリンをコードし、 ttx-4遺伝子がプロテインキナーゼ Cをコードしていることを明らかにした。TAX-6, TTX-4はともに 温度受容ニューロンAFDなどの感覚ニューロンで細胞自律的に機能し、感覚ニューロンの感度を調節していることが 示唆された。
(3) TTX-1転写因子は、温度受容ニューロンAFDの発生・分化決定因子である ttx-1変異体は、常に低い温度へ移動する好冷性異常を示す(図2)。 原因遺伝子をクローニングして解析を行った結果、TTX-1は、 ホメオドメインを持つOTD/OTXタイプの転写因子をコードし温度受容ニューロンAFDでのみ発現していた。 TTX-1を化学受容ニューロンで異所的に発現させると、機能的にも構造的にもAFD化する事から、ttx-1遺伝子は、 AFDニューロンの発生・分化のマスター遺伝子であることが示唆された。
(4)細胞接着因子L1のC. elegans ホモログ SAX-7は、組織化された神経節での神経細胞の位置の維持を制御している 神経細胞群は動物個体の中で三次元的に秩序を持って配列し、神経節として高度に組織化されている。我々は、 C. elegans 神経節に存在する神経細胞の位置の維持にイムノグロブリンスーパーファミリーに属する細胞接着因子L1の C. elegansホモログ SAX-7が必須であることを見いだした。この結果は今後、神経細胞の位置を維持するメカニズムの 解明につながることが期待される。
図2
野生型系統と変異体における9cmシャーレを用いた温度走性アッセイの結果。
曲線は線虫個体の軌跡を表わす。寒天培地の中心から周辺に向かって約17℃から25℃の放射状温度勾配が 形成されている。野生型個体では、飼育温度付近で等温線に沿って移動している。tax-4 変異体は温度無走性異常、 ttx-1 変異体は好冷性異常、tax-6変異体とttx-4変異体は好熱性異常を示す。カッコ内は飼育温度。2.温度走性に関与する遺伝子
研究紹介
http://bunshi3.bio.nagoya-u.ac.jp/bunshi0/index.html